ブラジリアン柔術は実戦で強いのか? 柔術VS空手
私はブラジリアン柔術を初心者から始めて、もう数年が経ちました。
同時に、正道会館でフルコンタクト空手(顔面パンチ以外、何でも有りの”実戦空手”)を修行し、黒帯でもあります。
そして日頃は、単なる中年サラリーマンです。
ビジネスマンとして昼間はデスクワークで、ずっと格闘技をやっているわけではないです。そんなビジネスマンだからこそ、逆に冷静に、ブラジリアン柔術の強さを考えることができます。
たまに、サラリーマンの同僚に、「ブラジリアン柔術と空手をやっている」という話をすると、「どっちが”強い”の?」とか、「どっちが実戦で”役に立つ”の?」という質問をされることがあります。
ネットには格闘技の強さを比較した情報があふれています。いわゆる総合格闘技のルールで、ブラジリアン柔術をバックボーンにしている選手が勝利すると、「柔術最強」というような記事が増えてきます。逆に負けた側の格闘技の方は、実戦向きではない、というような評価をされることがあります。
本当にそうなのでしょうか?違う人間が闘った結果なので、単純に比較できるものではないと思います。というわけで、ブラジリアン柔術とフルコンタクト空手の両方を経験している私なりの比較で、ブラジリアン柔術の強い部分と、フルコンタクト空手の強い部分を紹介します。
まずは、それぞれの強さを比較する前に、相手を倒す方法、つまり相手の仕留め方の違いを比較しておきます。
<強さの比較:相手の仕留め方>
まず、ブラジリアン柔術ですが、寝技が主体で、関節を極めたり、頸動脈や気道を絞めることで相手を仕留めます。打撃はありません。
具体的には次のとおりです。
・色々な関節を、それ以上は動かない方向へ無理やり動かしていくことで、
関節を破壊する
・頸動脈や気道を絞めることで、脳への酸素供給を遮ることで、意識を飛ばす
次に、フルコンタクト空手ですが、立ち技の打撃で相手を仕留めます。どのように打撃で仕留めるのかというと、打撃を受けた際の体の本能的な反応で動けなくさせることが基本です。打撃を受けてダメージを負った時に、体が自分の意識とは関係なく反応して動けなくさせることです。
具体的には次のとおりです。
・上段回し蹴りで、相手に脳震盪を起こさせて意識を飛ばす
・中断突きで横隔膜の動きを一瞬とめて、呼吸を乱してうずくまらせる
・打撃全般で、一瞬の強い痛みを与えて、体に防衛反応を起こさせて動きを止める
このように、相手の仕留め方が違います。練習では、その仕留め方に合った動きをすることになります。逆に、その仕留め方で、仕留められないような練習もします。その練習の結果、それぞれの格闘技に対応した体ができあがってくるのです。
では、どのような強さが備わるのでしょうか?
<強さの比較:スピードへの対応>
①俊敏性:引き分け
ブラジリアン柔術も、フルコンタクト空手も俊敏性はそうとう高いです。ブラジリアン柔術は、一見、組み合って膠着している時間があるので、それほど俊敏性が必要ないように見えます。しかし、守りと攻めが入れ替わる時間帯は、スピード勝負の要素もあります。相手が押さえ込みに入りそうになった瞬間に、ブリッジして体を入れ替えて一瞬にして攻撃側に変わる、というようなことが繰り返されていて、実は全身の筋肉がバネのような動きができる人が多いです。
一方、フルコンタクト空手ですが、打撃は単に正面から打ち合っていても、なかなか相手のディフェンスをかいくぐって急所に打撃を加えることはできません。そこでフットワークを使って、相手を左右に揺さぶる俊敏性が攻撃の起点になります。また、一瞬のスピードで相手の胴着を掴んだり、相手の首に手を引っかけたりして、相手のバランスを崩して、即座に打撃を加える連続技もあります。もちろん、ディフェンス側も、その攻撃をもらわないように、一瞬で防御体勢をつくる必要があるので、俊敏性が大切です。
②動体視力:フルコンタクト空手が強い
ブラジリアン柔術は、俊敏性は必要ですが、その動きを目で見て対応するというよりも、体全身で相手の動きをとらえながら攻防することが多いです。一方、フルコンタクト空手は、上段回し蹴りの変則蹴りや、胴回し回転蹴りなどのように、攻防の最中に、急に全く違う方向から蹴りが飛んでくる技が有り、動体視力はかなり高いレベルで鍛えておかないといけません。もちろん、経験的に技のパターンを覚えることもできますが、経験値にない攻撃に対応するためには、動体視力が重要です。
おそらく、やみくもに棒などを振り回してくる人への対応は、動体視力のある方が、攻撃をかわして、相手を制圧するために一撃を入れるのにはフルコンタクト空手の方が有利でしょう。
<比較:パワー>
筋力は、ブラジリアン柔術もフルコンタクト空手も相当なものです。ブラジリアン柔術は相手の体重や相手の動きをコントロールできるだけの筋力が必要です。フルコンタクト空手は筋肉の鎧で打撃から身を守ることが必要です。体幹の強さは、一見ブラジリアン柔術が強いかと思いますが、私のやっていたフルコンタクト空手は、胴着を掴んで崩したり捌いたりすることがOKの流派ですので、簡単にバランスを崩さないようにするだけの体幹の強さはあります。
違いはやはり、次の2つです。
①筋持久力:ブラジリアン柔術が強い
長時間、筋力を使って相手の動きをコントロールすることはブラジリアン柔術が勝っています。相手と密着している時間が圧倒的に長いため、それだけ筋力を使い続ける格闘技であるので、自然と筋持久力がついてきて、圧倒的に強いです。これは試合の時間の長さにも表れています。ブラジリアン柔術がシニアでも5分間闘うことに対して、フルコンタクト空手は2分から3分と短いです。
②打撃力:フルコンタクト空手が強い
筋力を使って、一瞬で相手の体に運動エネルギーを伝えてダメージを与えることは、フルコンタクト空手が勝っています。かなり強いです。相手へ突きや蹴りを当てる一瞬に力を集中させて打ち抜く爆発力の強さがあります。
暴漢と対峙したときに、まず実践的なのは、強力な打撃で制圧することができるフルコンタクト空手です。相手が打撃で反撃してきても、こちらは打撃になれているので、そう簡単には負けないでしょう。
しかし、相手が打たれ強く豪腕で組み付いてきたら、フルコンタクト空手よりもブラジリアン柔術の出番です。相手がいくら力が強くても、「柔よく剛を制する」多彩な技で、相手を極めたり、絞め落とすことが可能です。
<比較:技の多様性>
技の種類は、圧倒的にブラジリアン柔術が多いです。関節技といっても、体中に関節が有り、関節の極め方も多様です。絞め技も、胴着の襟を使って絞める技もあれば、腕や脚で絞める技も有り、これらの技の種類を習得するためには、大量の時間と練習が必要です。
フルコンタクト空手は、基本は突きと蹴りによる打撃です。もちろん肘や膝を使ったり、手刀やカカトを使うなどの打撃部位のバリエーションはありますが、基本的な動きは同じです。フェイントや変則蹴りもありますが、こちらも基本的な動きは同じで、攻撃の途中から動きを変えていく練習をすることで習得できますので、ブラジリアン柔術と比べると、習得までの時間は短いです。
個人的には、初心者が1年間練習した状態でも、技の多様性に戸惑うことが多いのは、圧倒的にブラジリアン柔術だと思います。ブラジリアン柔術をバックボーンにした総合格闘家が、打撃バックボーンの選手の打撃をかいくぐって、組み付いて寝技に持ち込んで勝つのは、それだけ技のバリエーションの多い格闘技をしっかりと練習しているからです。打撃専門家から寝技へ転向するよりも、寝技専門家から打撃へ転向する方が、少ない時間で総合格闘技への適応が可能だと思います。
<比較:想像力>
①空間認識力:ブラジリアン柔術が強い
ブラジリアン柔術は、立っても寝ても、前後左右上下と、自分が球体の中心にいて、相手を球体のどの場所にコントロールして持って行くのかという、空間認識力と、想像力が必要です。また、相手との位置が、頭の位置が天地逆で組み合ったり、自分が相手の上にいるのか、下にいるのか、自分の動ける空間はどこにあるのか、など、常に自分の位置を立体的に把握していないといけません。戦闘機パイロットのように宙返りや、背面飛行をしても、自分の位置が正確に理解できる空間認識力が必要です。
②技の読み合い:ブラジリアン柔術がやや強い
ブラジリアン柔術は「体を使ったチェス」と言われるように、相手のとの組合の中で、体の位置をどうのように動かすと、相手のバランスがどう崩れて、それに対して相手がどのように反応して、、、、、というように、数手先を読みながらの技の攻防が必要です。しかも、その技の種類が、先ほど書いたように、すごい数があるので、かなりの想像力が鍛えられます。
一方でフルコンタクト空手ですが、こちらも”詰め将棋”のように打撃の強弱や、打撃の位置を変えながら、相手をじわりじわりと追い込んで、最後に決め技でダウンさせます。
技の数がブラジリアン柔術より少ない分、読み手が少ないので、若干の差で、ブラジリアン柔術の方が、技の読み合いの力は強いでしょう。しかし、どちらの格闘技も、相手の動きの数手先を呼んで攻防するという練習を積むため、素人の力任せの暴れん坊に負けることはないでしょう。
<最後に>
実戦での強さを比較する方法は色々あります。ストリートファイトのように何でも有りのなのか、1対1での状況なのか、戦う場所が広いのか、狭いのか、武器があるのかなど、状況により、ブラジリアン柔術が有利な場合と、そうでない場合があります。
ただし、強いといっても、大人数でのケンカが強いとかではなく、一対一での強さです。ブラジリアン柔術も、フルコンタクト空手も、日頃の練習や試合のルール上は”顔面パンチなし”ですし、噛んだり、目を突いたりというようなストリートファイトの動きはありません。
顔面パンチ無しと有りでは、間合いが全然違いますので、まったく違った分析結果になると思います。
私の経験上、格闘技をやっている人には色々な人がいて、一見、普通のどこにでもいるおじさんのような人や、力のなさそうな女性まで様々です。しかし格闘技の強さやうまさは、外見ではまったく見分けられません。もちろん、筋肉隆々で、いかにも鍛えていますという人もいて、まぁ、そういう人はそれなりに強いし、うまいです。しかし、一見、強そうに見えない人でも、格闘技をやっている人は、その状況になると明らかに強いです。女性は、男性よりも柔軟性が有り、想像もしないような上段回し蹴りを蹴られることもあります。
決して外見だけで、力がなさそうに見えるからといってケンカは売らない方がよいと思います。